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絶望の先に見えるもの【2020.3.15 読書会『ディストピア』レポ】

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BOOKLOVE部長の棚瀬です。

3月15日に開催された読書会のレポートを掲載します。
今回のテーマは「ディストピア小説」。

ユートピア(理想郷)の対義語として使われることが多い言葉ですが、絶望的な世界を舞台にした物語について討論を行いました。

□紹介された本と紹介者のコメント

① ジョージ・オーウェル「1984年」

絶対的な権力者「ビッグ・ブラザー」により統治されている監視社会を舞台にした近未来全体主義小説。

歴史を改ざんする仕事に就いているウィンストン・スミスは、あるきっかけからビッグ・ブラザー打倒を目的とする地下組織の存在を知り、姿の見えない権力者を打ち倒そうとするのだが・・・

ディストピア小説の代名詞とも呼べる記念碑的作品。

紹介者のコメント

絶望的な監視社会を描いた小説で読んでいると暗い気持ちになってしまうが、全体主義の恐ろしさが詳細に描写されていて絶対にこのような世の中にしてはいけないと感じる。

監視機械や造反者を取り締まる思考警察、全体主義社会の歴史など、世界観を補完する細部の描写にリアリティがあり、実際に起こりうるかもしれない物語として読むことができる。

為政者の意向で事実がねじ曲げられてしまう描写は現実の日本でも実際に起こっていることであり、危機感を覚える。

巻末の解説からは暗い結末の向こう側に見える未来が示唆されており、この小説が二十世紀を代表する文学作品と呼ばれている理由がわかる。

② オルダス・ハクスリー「すばらしい新世界」

生殖工場で培養された人間たちが生まれつき定められた身分に身をゆだね、快楽のおもむくままに生きることが美徳とされるようになった未来世界。

辺境に生まれた未開人ジョンの眼を通して完璧に作り上げられた管理社会の不気味さを描いた「1984年」に並ぶディストピア小説の金字塔。

紹介者のコメント

『1984年』のような暗く絶望的な世界ではないのに、言いようのない不気味さと不条理に満ちている。

この世界の人々はなんの不満も不安も抱いておらず一見ユートピアのように見えるが、自らの意思で考えることも行動することも一切なく、ロボットのように生き方を規定されているところに恐ろしさを感じる。

苦しむことや悩むことも含めてはじめて“人間らしく生きる”といえるのではないだろうか。

③ 宮崎駿「風の谷のナウシカ」

猛毒の植物の森が地表を覆い、巨大な昆虫がひしめく世界で生きる小国の少女ナウシカ。

超大国同士の戦乱に巻き込まれた彼女は、やがて人間の存在意義と残酷な真実を突き付けられる。

スタジオジブリ製作の映画の原作マンガ。

紹介者のコメント

劇場版では描かれることのなかった結末と世界の秘密が明かされていて、ストーリー構成の深さに驚かされる。

物語の終盤でナウシカが選んだ“不条理なことを受け入れて生きる”という選択肢からは作者の強いメッセージを感じる。

④ 石田衣良「ブルータワー」

致死率88%のウイルス兵器により、人類が地表に住めなくなった近未来を舞台としたSF小説。

脳腫瘍により余命宣告を受けた主人公が200年後の未来に意識だけタイムスリップし、人類を破滅から救うために奔走する。

紹介者のコメント

9.11アメリカ同時多発テロに触発されて書かれたと言われているが、ウイルスによって人が外の世界で生きられなくなるという設定は、原発事故による放射能汚染を想起させられる。

生き残った人類が暮らしている塔の中での格差の描き方は現実世界を反映しているようでリアリティがあった。

絶望的な未来でも自分たちの選択肢で変えることができるというストーリーからは希望をもらえる。

⑤ 新井素子「チグリスとユーフラテス」

400年前に地球を捨て、異なる惑星へと移民した人々の物語。

原因不明の急激な少子化により人類の最後の生き残りとなった老女ルナは、コールドスリープ装置につながれたかつて移住者として暮らしていた人々を目覚めさせていき、その過程で惑星移住の歴史と自身が誕生することになった理由を知ることになる。

1999年、日本SF大賞受賞作。

紹介者のコメント

冬眠から目覚めた人たちを眠りについた順番とは逆に目覚めさせていくというストーリーが斬新で、徐々に惑星の歴史が明らかになっていく過程に引き込まれた。

主人公の見た目は老女なのに口調は少女という設定に最初はなじむことができなかったが、移住者の最後の生き残りという孤独さが浮き彫りになる秀逸な表現だと思った。

切なさを覚えるラストシーンは人間の価値観の不確かさに問いを発しているようで考えさせられた。

⑥ スティーブン・キング「ザ・スタンド」

米軍が秘密裡に開発していた致死率99%のインフルエンザウイルスが漏えいしたことにより引き起こされた人類滅亡の危機を描く。

絶望的なウイルス禍のなか、生き残ったわずかな人々が正義と悪の集団に分かれて結集し対決する。

多くの傑作を著してきたキング作品の中でも最高傑作に挙げる声も多い名作。

紹介者のコメント

善と悪双方の軍勢に対比する形で10人以上の主要人物が登場し、その生い立ちを詳細に描きながら同時進行させる作者の手腕がものすごく、かなりの分量があるものの全く気にならずに読めてしまう。

一見わかりやすいストーリーながらも最後の1ページまで展開が気になり読書の醍醐味を味わうことができる。

凶悪なウイルスに文明が蹂躙されていくさまにはある種の爽快さを覚えた。

⑦ マーガレット・アトウッド「オリクスとクレイク」

高度に発達した遺伝子工学と生体医療により、どんな欲望でも叶うようになった近未来。

人類に絶望した天才科学者が全てをリセットするために開発したウイルスにより引き起こされた人為的なパンデミックと、その後に訪れる世界を舞台にした予言的小説。

ノーベル賞に近いといわれているカナダを代表する作家による大作。

紹介者のコメント

臓器移植のための豚の変種や植物状の鶏など生物工学で作り出された生物が多数登場し、現代から地続きに待っているかもしれない世界のようで不気味さを覚える。

人間の欲望や醜い部分がことさらに強調されていて、読んでいると人間がいないほうが地球にとってはいいのではないかという気持ちにさせられる。

⑧ コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」

原因不明の厄災により文明が滅び去った世界を旅する父子の物語。

わずかに生き残った人々は倫理や道徳観を捨てた野蛮人となり下がり、破壊と略奪の限りを尽くしていた。

ほとんどの生物が死に絶えた世界で父子は互いを拠り所としながら心に火を掲げ、南への旅路を辿る。

2006年、ピューリッツァー賞受賞作。

紹介者のコメント

長編詩のような趣のある重厚な文体でつづられていて、作者の圧倒的な力量の高さに息をのまされる。

作中で何度も繰り返される『火を運ぶ』というフレーズが印象的で、読み終えた後もいつまでも余韻が残る素晴らしい作品。

全てが滅び去った世界で人間に最後に残されるものはなんだろうか、という思いに捉われた。

□編集後記 読書会を終えて考えたこと

今回のテーマは、現在世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの蔓延を念頭に選定されため、ウイルス兵器が登場する話や文明が滅びる物語が多く紹介されました。

物語として読む分にはとても面白いものが多いのですが、現実に起こってみると言いようのない不安に襲われ、増加し続ける感染者と死亡者のニュースに戸惑うばかりです。

このレポートを書いているのが4月21日。読書会を行ってからまだ1か月ほどしか経過していませんが、依然として深刻な状況が世界的に続いており、収束が全く見えません。

感染者に対する差別やバッシング、食料や医療品の買い占めなども一部で起こっており、ウイルスよりもパニックに陥った人間のほうが恐ろしいように思えてきます。

この新型肺炎の蔓延のなかで「早く元の生活に戻りたい」と多くの人が思ったかもしれませんが(私も思います)、同時に「本当に元通りに戻っていいのだろうか」という問いを突き付けられたような気がします。

『ユートピアは過去にしかない』

読書会のなかである参加者の方がおっしゃった言葉です。

今回の読書会で紹介されえた中には現実よりもずっと凄惨な物語もいくつかありましたが、その絶望の物語が読者に伝えようとしているのは、「容易に絶望してはいけない」ということなのかもしれないと感じました。

どんな物語にも時代や言語、国境の壁を越えて伝わってくるメッセージが込められていて、人はどのような状況でも考え行動し生きる― あるいは生きようとする ―ことができると教えてくれているように思います。

外出自粛が推奨されており、気軽に外出することもままなりませんが、このような状況だからこそ読書に取り組む好機と捉えることもできます。

今回ご紹介した小説だけでなく、普段読むことのできない大作や古典に挑戦してみるのもいいかもしれません。

□次回予告

4月は初めてオンラインで開催しました!詳しいレポはまたお待ちください。

5月もオンラインで開催します。
課題本は、名作『星の王子さま』です!

くわしくはFacebookページをご覧ください  →https://www.facebook.com/events/901041040337754/

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