夢を叶える~子どもの思い出話①~

高木教室を始めて31年が経ちました。
始めた頃は正直ここまで長く続けていくとは思っていませんでした。
我が子たちが高校を出る頃まで続けられたらいいなくらいに思っていました。
まさか、娘が帰ってきて塾を継ぐとは!
まったく思いもしませんでした。
娘は海外に行って暮らすのではないかと90%くらい思っていたから。
今まで高木教室に来てくれた子どもたちのことはほとんど公には書いてきませんでした。
何人か書いたことはあったけれど、個人情報だしなあとためらう気持ちがありました。

でも、最近考えが変わりました。
もしかしたら、今までの子どものことを書いたら、参考になる親子がいるのではないかと。

ということで、思い出に残る子どものことを書き残していくことにします。

最初は、2016年に書いたブログを転載します。

【夢を叶える】

年に一度だけ出会う、知り合いと言うほどでもない関係の人がいて、その人(仮りにチエ子さんとします)に1年ぶりに会い、1時間ほど話をしました。

近況報告などをした後、チエ子さんが「あなたは塾をやっているのですよね」と訊いてきました。

「私の姪の子どもがお世話になったそうなんです」とのこと。
誰のことかな?と名前を聞いたら、現在二十歳の教え子の名前が出てきました。

その子はトモ君(仮名)といい、中2の途中から入塾してきました。
性格は穏やかで人懐こい子でしたが、勉強はチョーのつくほど苦手でした。
他の塾に行っていましたが、着いていけなくて辞めざるを得なかったそう。
このままでは、高校に行けなくなってしまうと心配したご両親が、どこか良い塾はないかと探していて、
たまたま元塾生のお母さんから紹介されたそうで、問い合わせがあり、本人にやる気があったので入塾してもらいました。

トモ君は数学も英語も基礎が出来ていませんでした。
数学は、正負の計算も正しく出来ないレベルでした。
英語の方が少し点数は良かったと記憶しています。

そんなトモ君の趣味はお菓子作りでした。
お母さんもお菓子作りが得意で、2人で作ったから食べてと、クッキーやマドレーヌなどをよく持ってきてくれ、他の塾生もいつも楽しみにしていました。

そして、トモ君の夢は、パティシエになることでした。

農業高校の食品化学科へ入学して、その後専門学校などで学んでパティシエになりたい!そんなことを夢見ていました。

でも、勉強に対する集中力は低く、すぐに飽きてしまうし、やる気はあっても基礎が出来ていないので、自分で勉強するのは無理という感じでした。

入塾してから、少しずつ計算が出来るようになっていきました。
実力テストでは、最初の計算問題は点が取れるようになりました。
3年生になってからも休まず通ってきて、夏休みや土曜日の補習にもほとんど来ました。

そして、定期テストではそれなりに点が取れるようになりましたが、(と言っても平均点には及びませんでした)
実力テストでは、良くても180点くらい。悪いと150点も切ってしまいました。

そんな状態なので、進路相談では「農業高校は絶対に無理!」と言われ、他の高校の生活科に志望校を変更しました。

それでも、その生活科が定員オーバーしそうだと分かると、定員割れする福祉科への変更を勧められたのです。

学校の先生からは「毎日5時間勉強しないと受からんぞ」と毎日のように言われていました。
でも、トモ君にとっては、何をどう勉強すればよいのかもわからないのに、

毎日5時間勉強するなんてことはとても無理なことでした。
私は、英語はこれを練習して書けるように、数学はこれをやりなさい、
理科と社会は覚えるところをかなり絞り込み、ここだけは覚えるように、などと細かく指示してやらせました。

冬休み明け、志望校を決めるときに、お母さんから電話がありました。
「本人は、絶対生活科を受ける!と言ってききません。大丈夫でしょうか?」

トモ君のお母さんから、受験する科をどうしたらいいですか?と電話があったのは、願書を出すギリギリの時でした。

学校の先生からは、生活科は無理だから福祉科に変更するようにと言われたそうですが、トモ君はガンとして、「ぼくは福祉には興味はない。いやだ」と言うのだそうです。

私は「生活科がダメでも福祉科で合格できる(福祉科は定員割れ)ので、チャレンジしてはどうですか」と言いました。
自分が納得していないと、入学してから続かない可能性があると思ったからです。

落ちてしまったのなら仕方がないと諦められるかもしれない。
でも、チャレンジもしないで福祉科に変えたら、一生後悔するかもしれない。


そして、トモ君は、みごと合格しました!!
卒業を祝う会には、お母さんと作ったたくさんのお菓子を持ってきてくれました。
嬉しそうな顔を思い出します。


その後1年くらいした時に、スーパーでお母さんとバッタリ出会いました。
「トモは、友だちがいっぱい出来て、毎日楽しくやっています。
 相変わらず勉強はしないですけどね~」とお母さんが話されました。


チエ子さんとそんな思い出話をしている中で、
「トモ君は今どこにいるのですか?」と聞いてみました。
高校を卒業後、きっとどこかに就職しているのでは?と思っていたのです。

チエ子さんの言葉を聞いて私は正直びっくりしました。
「この春から岐阜のお菓子屋さんに就職が決まってね~」
「パティシエになる何とかっていう専門学校へ行ったんやよ」

話を聞いているうちに、腕がぞわぞわっとなるのを感じました。
トモ君は夢を叶えたんだ!

すごいな~!すごいな~!
トモ君は、人より少し成長が遅い子でした。
勉強ができないことで、友だちからバカにされたり、先生からも心ない言葉を言われたりしたこともありました。

そんなトモ君が、高校へ行って友だちがたくさん出来て、「ケーキを作る人になりたい」という小さい頃からの夢を叶えようとしているのです。
もちろん、これからの方が大変かもしれません。
がんばってほしいな~と、心から応援したい気持ちです。

チエ子さんには別れ際に、こうお願いしました。
「トモ君がケーキを作るようになったら、
  岐阜まで買いに行くからねとお伝えください」と。

転載ここまで

2016年に書いたものなので、トモ君はもう30歳近くになっているでしょう。
結婚してもう子どももいるかもしれません。

今こうして読み返してみると、あの頃のトモ君の顔が浮かんできます。

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